【スゴ本】ダイナソー・ブルース

巨大隕石衝突による恐竜絶滅説、いいですよね。恐竜という巨大生物はただその存在だけでも十分に魅力的なのに、劇的すぎるラストシーンがコンテンツを完璧なものに仕上げている。

6500万年前、陸・海・空を我が物顔で闊歩し地球を支配していた恐竜たちは天から降って来た巨大な隕石の衝突によって一夜にして滅びました。隕石の衝突で巻き上げられたチリは太陽の光を遮り、世界を闇に包みました。植物は枯れ、全ての命が死に絶えたかに思われました。しかし、命は消えていませんでした。やがて世界に光が戻り、生き残った哺乳類たちは支配者のいなくなった大地へと足を踏み出しました。ここに新たな時代が幕を開けたのです。それは我々人類の時代へと続く道なのでした。

なんという完璧すぎるご都合主義ストーリー。しかし、これは科学が暴き出した事実なのである*1。この地球史上に残る大事変は多くのクリエイター達にも影響を与えている。アルマゲドンディープインパクトという隕石パニック映画はもちろん、日本のゲーム、特にファイナルファンタジーにおけるメテオという魔法の特殊な立ち位置は、この巨大隕石衝突説から多大なインスピレーションを受けていることは間違いないだろう。

というわけで、今や一般にも定説として受け入れられている巨大隕石衝突説だが、この学説が発表された当初から学会でも大きな衝撃と喝采を持って受け入れられた、なんてことはなかったのである。隕石衝突説が受け入れられるまでには数々のドラマがあったのだ。恐竜の繁栄と絶滅のストーリーや、隕石衝突説に影響を受けたフィクションにも劣らない物語が。

隕石衝突を否定するもの、異なる説を提唱するもの、誤った説を提唱し全てを失ったもの、一足遅れて栄光を手にできなかったもの。隕石衝突説に翻弄された科学者達の生き様を描き出したのが、この本、ダイナソー・ブルース。

学説というのは真実に一直線に向かうものではない。寄り道、間違い、軌道修正の末に定説となっていくのである。隕石衝突説も同じで、その紆余曲折がまるでミステリー小説のように描き出される。読者は次々と提示される新たな証拠に当時の科学者のように翻弄されるのである。えっ隕石説間違ってない?いやいややっぱり隕石が正しいじゃん!が繰り返され真実に一歩ずつ近づいていく。ネタバレで犯人知っているのに先が気になって一気に読んでしまう。

かつての恐竜少年少女だった大人達、隕石衝突説を提唱したアルヴァレス博士ってどんな人だったの?と気になる人、サイモン・シンのサイエンスノンフィクションを楽しく読んだ人、銃・病原菌・鉄のような知の冒険を楽しみたいという人にはこれ以上ないオススメの一冊。

*1:若干の誇張というか嘘というか今では否定されている話も混ぜている、実際はさすがにこれほど劇的ではないw