鏡と上下と左右

駄文ニュース経由で興味深い話題を見つけた。

鏡はなぜ、左右だけ反転して、上下は反転しないかという興味が無い人にはきわめてどうでもいい話題。この話題のさらに元はどうして鏡に映ると左右が反転して見える?という記事のようだが、この記事の中に気になる記述があった。

  1. ものの見え方というのは、「自分がどう見るか」 という 「視線」 にかかっているということ。あるのはただ 「視線」 のみと言ってもいいぐらいだ。
  2. 人間の視線というのは、かくも重力を前提としすぎていて、「左右」 は簡単にひっくり返るが、「上下」 という観念には、容易には逆らい難いものがあるらしいということだ。

この教訓と言っている内容こそが鏡の左右反転を説明する出発点だと思っているのですが、結論は一緒です。同じ結論でも、考え方の方向が逆向きになっていて面白いと思った。

左右という概念は人間の立ち位置に対する相対的な向きを示す概念。左右という方向は、自分が向いている方向の変化に合わせて常に変化する。対面通行の道路ではいずれに向かう車も道路の左側を走っていますが、正面衝突しない。正面から接近する2機の飛行機が互いに左によければ衝突はさけられる。このように右と左という位置概念は、観察者の視点によって決定される概念だ。

一方、上下は観察者の状態に依存しない絶対的な位置方向。空の方向が上、重力加速度の向きが下ということは観察者の状態に関わらず不変。正面から接近する飛行機が互いに上にさけたら衝突してしまう。もちろん地球の裏側は?宇宙空間では?という疑問もあるけど、上下という位置概念は観察者の視点によって決定されない絶対的な方向の概念と言える。

鏡に映った自分の姿をイメージする。絶対的基準をもつ上下はどこから見ても上下です。変化することはない。一方、左右を考えた場合、鏡に写った自分の視点で見れば、確かに左右は変化しています。鏡に映った自分の右手は、鏡の中の自分から見れば左側にあります。しかし絶対的な位置は変わっていません。自分から見れば、鏡に映った自分の右手はやはり右側に存在している。

鏡に映ると左右が入れ替わったように見えるが、上下が入れ替わらないのは何故かという問いに対しては、上下と左右では方向としての概念が異なっている為、という回答を与えることができると思う。「前後(Z軸)が反転する」「視線の方向が裏返る」という事と同じことなのですが、観察者の視点が変化しているため、左右が入れ替わったように見えるのであり、絶対的な位置関係は変化していないのです。

左右という概念は、異星人とのコンタクトに関して面白い考察をすることができる。それは遥か宇宙の彼方に異星人を発見し、彼らと意思疎通が可能になったとしても、言葉だけを用いて我々が考えている左、右が示す方向を異星人に伝えることはできない、という考察です。左右は相対的な概念であるため、地球人と異星人が互いに了解しているであろう宇宙に遍在する共通の絶対基準(種々の自然法則)をもって説明することができないので、異星人と出会ったら右手で握手しましょうという約束はできないというお話